東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)193号 判決
一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、審決にこれを取消すべき違法の事由があるかどうかについて判断する。
1 原告は、本願発明の、帯状メタリツクワイヤが支持プレートの凹面にその曲率によつて保持されるという構成は、両者を取付ける前においては帯状メタリツクワイヤの曲率半径は支持プレートの曲率半径よりも若干小さいことを意味するものであるところ、第一引用例にはそのような取付前の構成は示されていないから、第一引用例のものと本願発明とは異なる旨主張し、更に、第一引用例のものは、帯状メタリツクワイヤの歯の長さを研削によつて調整することによつてはじめて適切なカーデイング面の凹状を形成するものであるところ、審決はこの点を看過している旨主張する。
しかしながら、成立について争いのない甲第二、第三号証によれば、本願発明は名称を「カーデイング面部材」とし、明細書の特許請求の範囲の記載を前記当事者間に争いのない本願発明の要旨(事実摘示第二、二)のとおりとする、帯状メタリツクワイヤ、支持プレート等全ての部材を取付た後の面部材に関する「物」の発明であるところ、その「物」の発明も原告が主張するような曲率半径の異なる部材を取付ける、あるいは、第一引用例とは異なつて、帯状メタリツクワイヤの歯の長さを調整しないでも適切なカーデイング面の凹状を形成することができる、という、「方法」によつて限定された「物」の発明であると認めることはできないから、これを前提とするかのごとき原告の主張は、いずれも採用できない。
2 原告は、第一引用例のごとく充分な剛性を有すべきクリツプを介して帯状メタリツクワイヤを配置した場合には、支持プレートの凹面に基づいて帯状メタリツクワイヤの歯の先端の形状を規定することはできないから、このような第一引用例のものを本願発明のように帯状メタリツクワイヤが支持プレートの凹面に基部を密着するようにすることは容易ではない旨主張する。
しかしながら、審決は、帯状メタリツクワイヤがクリツプを介して支持プレートの凹面に基部を密接している第一引用例のものから、本願発明のように帯状メタリツクワイヤが支持プレートの凹面に基部を密着するようにすることは容易であると言つているのではなく、右の点は本願発明と第一引用例との差異点として認め、右差異点につき、第一引用例の発明において帯状メタリツクワイヤがクリツプを介する以外は直接支持プレートの凹面に密着できないことはないし、また、第二引用例の記載からすれば、第一引用例の発明において、帯状メタリツクワイヤの基部を直接プレートに密着するように変更することは、当業者ならば容易になしうることであるとしているのであり、審決の認定はこれを是認することができるから、原告の主張は理由がない。
3 原告は、また、第一引用例のごとく帯状メタリツクワイヤが支持プレートの長手方向に断続して伸びている場合、その配置は煩雑であり、支持プレートへの帯状メタリツクワイヤの配置は容易ではなく、このようなものから、帯状メタリツクワイヤが支持プレートの長手方向ほぼ全長領域にわたつて伸びるように支持プレートの両端に取付けられている本願発明に想到するのは容易ではない旨主張する
しかし、審決は、本願発明は第一、第二引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとしているのであつて、第一引用例だけを挙げてその記載から容易に発明しえたものとしているのではないから、原告の主張は失当である。
三 以上のとおり、原告の主張はいずれも理由がなく、審決にはこれを取消すべき違法の点はないから、その違法を理由に審決の取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
針布を備えたメインシリンダーと協同してカーデイングを行うためのカーデイング面部材であつて、該メインシリンダーの曲率とほぼ等しい曲率を有する凹形支持プレートと、歯を内に基部を外にして予め曲げられた多数列の帯状メタリツクワイヤとを含み、該多数列の帯状メタリツクワイヤが、該支持プレートの凹面に基部を密着して、その曲率によつてこの位置に保持され、かつ該支持プレートの長手方向ほぼ全長領域にわたつて伸びるように、該支持プレートの両端に取り付けられており、これによつて、該メインシリンダー及び該支持プレートの曲率とほぼ等しい曲率を有するカーデイング面を形成して、該多数列の帯状メタリツクワイヤバンドの歯が該メインシリンダーに近接してほぼ均一に向い合うことを特徴とする面部材。